代理店のリスティング広告資金繰り
今回はWEBマーケティングのテクニックや業界の知識ではなく、会計・財務面からの視点でお話したいと思います。
代理店が行うリスティング広告、Facebook広告という事業について資金繰りの面から考えたことがある方もいらっしゃるでしょうが、お金の流れが特徴的ですので興味のある方は是非ご一読下さい。
しまった!入金は数カ月後…どんなことが起こる?
クライアントとの契約内容によって相違はありますが、まずは代理店がGoogleなどの媒体に予算を入金し、広告を運用します。
入金した予算のうち消化した金額に内掛けもしくは外掛けで、代理店手数料を上乗せし、クライアントへグロス(報酬)を請求する、という形になっています。
売上原価となる費用を先に支払い、その後に売上を月末締め翌月入金で請求していますので、費用の支払いと対応する売上の入金が数か月間離れる事となります。
その結果どのような問題が発生するのかと、問題の解決方法を2つお伝えしたいと思います。
が、まずは問題点を分かり易くする為、資金繰りという言葉のご説明を致します。
資金繰りとは
資金繰りとは、様々な支払いに対応できるように入ってくるお金と出ていくお金を管理し、資金をコントロールする事を言います。
サラリーマン家庭の場合は毎月の給料があり、ほぼ一定額が入金されてくるのに対し会社経営の場合はそうもいきません。
会社間の取引では掛売上という手法をとっており、売上となるものを提供した時点で入金があるとは限りません。
契約内容によって異なりますが、売上になる活動を行ってから入金されるまでの期間が各々設定されています。
入金サイトと呼ばれていますが、入金サイトが長ければ長いほど黒字倒産しやすい業態と言えるでしょう。
費用の支払いもサービスを受けたその時に支払うとは限りません。
末締め翌月払いなのか、購入した際に払うのか等、サービスや契約内容によって支払日はそれぞれです。
資金繰りを良くする為には、売上の入金は早め、費用の支払いは遅めにコントロールするのがセオリーとなっています。
因みに事業会社の預金残高は、キャッシュアウトの3か月分が健全経営と一般的に考えられています。
入金日・出金日を把握する
しかしながら売上の増加にともない支出も増加していくとなると、設立間もないベンチャー企業が常時、3か月分の運転資金を維持するのは困難と思われます。
また、利益がでている=現金がたくさんある、という認識を持っている方が多いと思いますが、会社の会計帳簿は発生主義で記帳されています。
発生主義で取引を行った月に記帳されていますので、必ずしも入出金があった日に売上や費用が計上されているわけではありません。
儲かっているのに何故か運転資金が少ないと感じている経営者もいるかと思います。
会計帳簿を見ても未来の入出金の予定は把握できません。
未来の入金額、出金額をなるべく早めに集計し、予定を把握する事が安全な資金繰りへと繋がり、健全経営が実現する事でしょう。
入金、出金の予定を把握出来ず、判断を誤ってしまうと黒字でも倒産という憂き目に遭ってしまいます。
黒字倒産とは
前述のとおり、資金繰りがうまくいかない会社は黒字でも倒産してしまいます。
会社とは赤字だから倒産するのではなく、支出が支払い不能になった時に倒産してしまいます。
また、高額な資産を購入した時は、減価償却と呼ばれる複数年に分けて経費計上するという税法もある為、キャッシュアウトが多いにも関わらず、黒字になるという事は少なからずあります。
計画倒産もあるかと思いますが、倒産した会社の半分弱が黒字だったという近年のデータもありますので、黒字倒産には注意が必要です。
赤字でも倒産しない!?
逆に取引先へ費用を支払い続ける事が出来れば赤字でも会社は倒産しません。
金融機関から融資を受けている場合、役員報酬を予想純利益より高額に設定し、経営者から借り入れている場合など、赤字だったとしても運転資金が調達できれば倒産はしません。
前述した高額資産購入時の減価償却の処理については、購入した初年度はキャッシアウトがあるのですが、2年目以降はキャッシアウトなしで減価償却費が計上される事となります。
キャッシュアウトのない費用(減価償却費)と役員報酬の2つであえて赤字へ調整している企業もあり、赤字だから必ずしも倒産するという事はありません。
赤字の原因が減価償却費と役員報酬で、経営者から資金を調達できる状況なら倒産はあまりしないでしょう。
資金繰りがうまくいっているかがポイントになります。
リスティング広告の資金繰り問題
資金繰りや倒産についての説明が長くなってしまいましたが、代理店の資金繰りについての問題点にフォーカスしてみましょう。
広告代理店のお金の流れは媒体に入金をし、消化した金額からグロスを請求しています。
月末締め翌月入金がほとんどですので、払った費用に対応する売上の入金が2,3月後という事になり、理想の資金繰りとは逆の現象が発生してしまっています。
インハウスであれば月初に消化する金額を設定し月内に消化すれば、費用の効果が月内に現れる為、問題はないと思います。
しかし代理店の場合は、消化する金額のみ予算として入金しているわけではありません。
クライアントの要望に応える為や、資金がショートして運用停止になる事を回避する為多めに入金しています。
毎月末に消化されない予算がある事で、キャッシュアウトは発生しているが、売上として請求できない予算が存在する事になります。
翌月以降に消化されるとはいえ、クライアントの数も増えてくると金額も多額になり、資金繰りという面では、非常に効率が悪くなってしまいます。
前払いした予算に対応する売上の入金が2,3か月後、月内に未消化のものは更に1か月後の入金、という2点が重なると、資金繰りが悪化しやすいキャッシュフローになってしまいます。
このように資金繰りの効率が悪いと急成長するベンチャー企業においては、何故か儲かっているのに現金がない、という状況に陥ってしまいがちです。
更に売掛先の資金ショートや貸し倒れが発生するリスクもあります。
貸し倒れリスクを回避する為に、取引額が多い場合は売掛先の経営状態にも注視していきたいところです。
以上が代理店が抱えるリスティング広告の資金繰り問題です。
それでは、解決方法を探っていきましょう。
多額のキャッシュアウト!どう切り抜けるか? —— 2つの解決方法
解決策① ファクタリング
まず1つ目がファクタリングです。
ファクタリングとは、「保有している売掛債権を業者に買い取ってもらう事」です。
販売した売掛債権の数%を手数料として業者に支払い、得意先からの入金日より早く現金を得る、というサービスになります。
手形割引とファクタリングの違い
ファクタリングと似ているものに手形割引というものがあります。
売掛債権を手形で受け取った場合、満期日(入金日)前に利息や手数料を差し引いて換金することです。
売掛債権に手数料を払い、着金日を早くするという目的はファクタリングと同じなのですが、内容に違いがあります。
手形割引は売掛債権を担保に融資を受けるというものなので、返済義務があります。
売上を計上している取引先が不渡りを起こし倒産場合、返済義務が割引いた会社に発生してしまいます。
ファクタリングは、売掛債権をすでに販売している為、売掛先の倒産や未払いが発生しても返済義務はありません。(ファクタリングであっても、個別の契約内容に保証を求められる場合もあるので、注意は必要です)
手形割引のメリットは、ファクタリングよりも手数料が少ないというところですが、手形取引を取引先と行えるかという問題もあり、リスク回避も含めファクタリングの方が広告代理店にとってスムーズに行う事が出来ると思います。
代表的なものに、2社(者)間ファクタリングと3社(者)間ファクタリングがありますので、ご説明したいと思います。
2社間ファクタリングの流れ
①クライアントへ広告代金請求 (広告代理店↔クライアント)
②ファクタリング契約 (広告代理店↔ファクタリング先)
③広告債権譲渡代金がファクタリング先から入金 (広告代理店↔ファクタリング先)
④その後、クライアントから広告代金入金 (広告代理店↔クライアント)
⑤入金された広告代金からファクタリング先へ出金 (広告代理店↔ファクタリング先)
お金の流れは、広告代理店↔クライアント、広告代理店↔ファクタリング先
入金と出金の取引がそれぞれ2社の間で完結しているので2社間ファクタリングと言います。
メリット
売掛先へファクタリングを行っている事を知らせる必要がありません。
取引先から資金繰り悪化のイメージを避ける事が出来ます。
デメリット
手数料が3社間ファクタリングよりも多くなる。
3社間ファクタリングの流れ
①クライアントへ広告代金請求(広告代理店↔クライアント)
②ファクタリング契約(広告代理店↔ファクタリング先)
③広告代金債権譲渡通知(広告代理店↔クライアント)
④ファクタリング先から譲渡代金入金(広告代理店↔ファクタリング先)
⑤広告代金支払い(クライアント↔ファクタリング先)
2社間ファクタリングでは発生しなかった(クライアント↔ファクタリング先)の取引が発生しています。
メリット
直接入金されるところから債権を回収するので、ファクタリング会社からすれば、回収リスクが軽減されます。
その為手数料が2社間よりも少なくなっています。
デメリット
売掛先の合意が必要で、海外では一般的ですが日本ではファクタリングに良いイメージを持っていない企業もあるので、提案には注意が必要です。
以上、2社間と3社間のファクタリングについて、大まかに説明させて頂きました。
インターネット広告業界向けのファクタリング業者があり資料さえそろっていれば即日入金も可能なようです。
しかし、手数料分は損失になり、本来受け取るはずの現金は減ってしまいます。
一度ファクタリングを行うと、翌月の資金繰りが悪くなってしまい根本的な解決にはなりません。
大きな案件を受ける為の資金がたりない、など一時的に資金が必要な時は、有効に活用できるでしょう。
解決策② 請求書払いへの変更
【多額のキャッシュアウトをどのように切り抜ければ良いのか ——— 2つの解決方法】の2点目は請求書払いへの変更です。
クライアントのアカウント毎に、前金で支払っている媒体への予算の支払方法を、月末締めの請求書払いでまとめて支払う事へ変更する事です。
売上に対応した費用の出金と、入金をなるべく近づける為に行うのが目的です。
Google広告とFacebook広告は変更可能、Yahoo!広告は請求書払いへの変更不可のようですが、Yahoo!広告も今後変更可能になるかもしれませんので、情報のチェックや担当者へのヒアリングは欠かさない方が良いでしょう。
Google広告を毎月の請求書発行へ切替える
一定の要件を満たしていないと変更の申し込みは出来ません。
会社登録、Google広告アカウントの良い運用を1年間続けている、支払額が5,000$以上を過去12ヵ月の内、3回以上あること、などがあります。
上記は基本要件となっており、申し込み後に与信審査を行い、審査に通った場合変更可能となります。
申し込みをすると、Google広告サポートセンターから申請メールが届くので、そちらを参照してください。
与信審査の為に、IDなど元々知っている情報以外に、履歴事項全部証明書、監査済み財務諸表が必要になる場合があります。(会社によって必要資料は異なると思われます)
私が業務において行った処理を一例としてお伝え致します。
●履歴事項全部証明書は、法務局(出張所含む)で印鑑カードを持参のうえ、発行する機械に代表取締役の生年月日を入力すると600円で取得出来ます。
●監査済み財務諸表は公認会計士の資格保有者へ依頼する必要があります。
税理士の資格では作成出来ないので、もし顧問契約している事務所で対応できない場合は、紹介か、自分で公認会計士のいる監査出来る事務所を探す必要があります。監査済み財務諸表はおそらく数万円はかかるでしょう。
●全ての書類を提出すると2週間ほどで審査結果のメールが届き、請求書払いに変更出来る上限額もその際に記載されています。
支払いサイトは、月末締め翌月60日後までの支払いとなり、売上の入金を待ってから支払うことが出来るようになります。
それ以外にも予算オーダーなるサービスもあり、毎月の上限額を設定し広告費の予算の使い過ぎ防止機能もあります。
事前にその月の上限額をクライアントと打合せできているのであれば、利用した方が良い機能となっています。
別々の請求書を発行したり、1つの請求書にまとめた場合でも請求書内で子アカウントごとの請求額を載せる事が出来るので、クライアントごとの支払額は把握できる仕様になっています。
変更の手続きは、変更したいクライアントのアカウントの、請求とお支払いの画面で出来ます。
請求書名や、請求書番号、備考などを記載する場所がありますので、そちらに顧客番号や整理番号など記入しておくと経理担当は管理しやすくなります。
以上がGoogle広告の請求書払い変更の一連の流れになります。
Facebook広告を月極請求書払いへ切替える
月極請求書払いという似たようなサービスをFacebookでも行っています。
月極請求書払いはビジネスでの取り扱いとなる為、ビジネスマネージャを利用している事が必要条件となっています。
それ以外にも、Facebookアカウント担当者がいる、過去3か月間、毎日$10,000以上を消化しているというものがあり、申し込み後、所定の手続きを行いますが、大まかな流れはGoogle広告でもご説明したので割愛させて頂きます。
Google広告との違いは、月末で締めた後の支払い期日がGoogleは60日なのに対し、Facebookは30日である点です。
大手3社のうち、2社の支払方法変更が出来れば代理店にとっては大きな助けとなり、取引額が多くなっている代理店にとっては必須の手続きと言えるでしょう。
要件に当てはまりまだ変更をしていない方はぜひお試し下さい。
ファクタリングと違い、リスクなく手続きを行うだけで改善されるものになっています。
以上、融資以外ので資金繰りを改善する方法、2種類ご説明させて頂きました。
代理店の方へ伝えたい事
資金繰り・黒字倒産について考えてみましたが、黒字であるという事は納税も発生していることになります。
GoogleやFacebookへの支払いは消費税の課税仕入れとはならず、法人税等、消費税ともに多額のキャッシュアウトが発生する可能性があります。
事業が拡大している代理店の方は早めの資金繰り・節税対策を行う必要があります。
ファクタリングについては、常時利用してしまうと自転車操業の傾向がでてきてしまうので、あくまで限定的な手法と考えた方が良いでしょう。
リスティング広告の運用は、企業にとってキャッシュフローに大きく影響する事があります。
代理店へ運用を依頼した場合、自社で運用するよりもキャッシュアウトを約2~3ヵ月先延ばせる事が出来ます。
代理店の方はクライアントへ広告運用を提案する際、通常のサービス以外に会社のキャッシュフローについても貢献出来る、と伝えてみてはいかがでしょうか。
請求書払いへの変更は、ある程度の取引金額にならないと変更は出来ないものになっています。
ご興味のある代理店の方は是非【DIG】までお問合せ下さい。

KAGAYA

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